民事執行法における財産開示手続の改正について

1 今までの手続きの問題点

裁判で勝訴判決等を得ても、相手方が任意に支払わなければ、別途裁判所に申し立てて、相手方の財産を差し押さえる等して、強制的に相手方から支払わせる必要があります。

相手の財産から強制的に支払いをさせることを強制執行と言い、この強制執行手続については、民事執行法という法律に規定されています。

強制執行手続の中では、具体的に差し押さえる財産を債権者の側で特定をする必要があります。

たとえば、どこの会社から支払われる給与債権を差し押さえるとか、会社の情報等が必要です。

裁判をして勝訴したとしても、相手方が任意に判決通りに支払いに応じなければ、権利者の側で相手の財産を調査する必要があり、財産が判明しなければ強制執行できないという大きな問題があります。

これらの問題に対処するために、平成15年から民事執行法の中に「財産開示制度」という制度が設けられました。強制執行手続において、債務者自身に自分の財産に関する情報の開示義務を課したものですが、この手続には、実効性に難がありました。

こうした状況を受け、2019年5月に民事執行法における財産開示手続が改正され、2020年4月1日から施行されます。

2 改正点

(1)申立権者の拡張

従前、財産開示手続を申立することができる者は、債務名義(強制執行の根拠となる文書。典型例は確定判決)を有する債権者及び一般先取特権者(担保権者の一種)であり、かかる債務名義の中でも仮執行宣言付き判決(確定前の判決の一種)、公正証書(公証人により作成された文書)、支払督促(簡易な判決のようなもの)の場合は除かれていました。

改正法では、かかる債務名義の限定がなくなり、いかなる債務名義であっても申立可能となりました(改正法197条1項)。

養育費の支払い等を公正証書で定めているケースについて、従前ではかかる公正証書を保持している債権者は債務者に対する財産開示ができませんでしたが、改正後には可能となります。

(2)罰則の強化

従前、開示義務者が開示期日で不出頭・不開示・虚偽供述の場合、30万円以下の過料(行政罰)が科される可能性があるのみでした。

しかし、改正法では刑事罰となり、50万円以下の罰金又は6ヶ月以内の懲役が科されることとなりました(改正法213条1項5号)。

つまり、犯罪になるということです。

行政罰から刑事罰となり、罰則が強化されたことにより、実効性の確保につながることが期待されるところですが、従前より裁判所は不出頭等の債務者に過料を科すことに消極的でしたので、改正後、裁判所が罰則についてどのように運用するのかという問題があります。

(3)第三者からの情報取得手続を新設

従前、財産開示手続では債務者自身からしかその財産に関する情報を得ることができませんでしたが、改正法では第三者から債務者の財産に関する情報を得ることが可能になりました(改正法204条以下)。

対象となる事項は、債務者の不動産、給与債権、預金口座等に関する事項です。

①債務者の不動産に関する情報取得(改正法205条)

裁判所は、申立権者の申立てにより、登記所に対して、債務者が所有権の登記名義人である土地建物に対する強制執行又は担保権の実行を申し立てるために必要な事項について情報提供を命じなければならないことになりました。

この制度によって、債務者の不動産を調査し、調査の結果、不動産があることが分かれば、差押をかけること等ができるようになることが期待されます。

②債務者の給与に関する情報取得(改正法206条)

裁判所は、申立権者の申立てにより、市町村、特別区、その他の団体(日本年金機構・国家公務員共済組合等)に対して、債務者の給与等に対する強制執行又は担保権の実行を申し立てるのに必要な事項について情報提供を命じなければならなくなりました。

市町村や年金事務所などには給与所得者の勤務先の情報があるため、これを問い合わせることで債務者の勤務先を特定し、給与の差押ができる可能性が高まります。

ただし、この制度による情報開示は債務者に対するプライバシーの侵害の程度が大きいことから、申立ができる資格が以下の通り限定されています。

ア 婚姻費用債権・養育費債権・扶養料債権に関して執行力のある債務名義の正本を有する債権者
イ 人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者

③債務者の預貯金口座、株式や社債等に関する情報取得(改正法207条)

裁判所は、申立権者の申立てにより金融機関等に対し、債務者の預貯金等に関する情報の提供を命じなければならなくなりました。

銀行預金の差押えをするためには、相手がどの銀行のどの支店に銀行口座を保有しているかを、差押えの申立てをする側で特定しなければなりません。相手がどの支店に口座を持っているかがが分からない場合は、これまでは、相手の住所地の近くの支店などに絞って差押えをしたりすることがありましたが、空振りになることも珍しくありませんでした。

改正後の制度では、どの銀行かさえ特定すれば裁判所からその銀行の本店に情報の提供を命じることで、その銀行のどの支店に相手の銀行口座があるのかを回答してもらえるようになります。

金融機関に対する照会については、これまでも後述のように「弁護士会照会」によって開示を受けられるケースはありましたが、この制度が設けられたことにより、より一層、スムーズに情報提供を受けられるようになることが期待されます。

3 その他

(1)改正でも残る問題点について

①煩雑な要件の維持

財産開示請求のその他の要件として、ア 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立日の6ヶ月以上前に終了したものを除く)で完全な弁済を受けることができなかったとき(197条1項1号、2項1号)イ 知れている財産に強制執行又は担保権実行をしても完全な弁済を受けられないことの疎明(簡易な立証)があったとき(1項2号、2項2号)のいずれかを満たす必要があり、かかる要件については維持されています。

また、過去3年以内に債務者が財産開示した者である場合、原則としてかかる者に対する財産開示はできず(197条3項)、かかる点についても改正はありません。

②生命保険の返戻金については、本件改正法における第三者からの取得手続の対象ではありません。

③第三者からの情報取得手続における不動産、給与債権については、先に財産開示手続期日を前置する必要があります(改正法205条2項、206条2項)。そのため、債務者に秘密裏に手続を進めることは難しいです。

④対象が預貯金の場合にも、情報取得後、債務者に通知がいく(改正法208条)

銀行が情報を提供した事実は、相手にも通知されます。しかし、これに関しては、相手に通知をされる前に、申立てをした側に裁判所を通じて情報が提供されるので、その間に迅速に預金の差押えを実行すれば、預金を下ろされてしまうリスクは回避可能と考えられます。

⑤財産開示手続は公示送達ができないため、相手方の住所が不明な場合には利用できません。

(2)付随的な制度・法令

従前、第三者からの債権調査の主な方法としては弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会があります。

①弁護士しか行えない。

②照会された相手は弁護士法による回答義務を負うが罰則がないため回答が得られない事もある。

③債務者に対して秘密裏に行える。

④費用が1回につき1万円弱、期間が1か月程度かかる。

(3)まとめ

上記のように煩雑な要件等の問題点はありますが、第三者からの取得手続の新設によって不動産、給与債権、預貯金債権については弁護士会照会手続で行っていた債権調査を財産開示手続で行えるようになり、かつ、弁護士照会手続きにて非開示であったものが開示される可能性高くなりました。

また、申立権者の緩和、罰則の強化により実効性は上がると考えられます。

この記事は弁護士が監修しています。

片島 均(弁護士)弁護士法人法律事務所DUON
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