就業規則作成・変更に関するQ&A集

Q1 弊社の場合、平常時の労働者数は10人未満ですが繁忙期には10人以上になる年もあります。就業規則は必要でしょうか?

A1 基本的には不要です。就業規則を作成しなければならないのは「常時」10名以上の従業員を使用する場合なので、繁忙期など「一時的に」10名以上になるだけであれば作成義務が及びません。

ただし状況によっては「繁忙期」が長引いたり、臨時雇いのつもりで雇用した従業員を継続雇用したりする可能性も考えられます。すると「常時10人」となりますので、いずれにせよ就業規則は念のために作成しておくようおすすめします。

Q2 正社員は5名ですが、派遣社員や下請業者の従業員を含めると事業所で働いている人数が10名以上になります。こういったケースでは就業規則が必要でしょうか?

A いいえ、不要です。「常時10人以上」をカウントする「労働者」には「雇用主が異なる労働者」は合算されません。派遣社員や下請業者の社員は御社とは別の事業者に雇われているので、それらの方はのぞいて計算します。派遣社員や下請け会社の社員をのぞいた従業員数が10名未満であれば就業規則を作成する必要はありません。

Q3 就業規則を作成、変更して労基署に届け出る流れを教えて下さい。

A3 以下の手順で進めましょう。

  1. 就業規則案の作成
  2. 労働組合または従業員の過半数の代表者から意見を聴取する
  3. 従業員の代表者から提出された意見書を添えて就業規則を労基署へ届け出る
  4. 就業規則の内容を従業員へ周知する(見やすい場所に掲示する、備え付ける、配布するなど)

Q4 就業規則を作成して労働基準監督署への届出もしましたが、社員がアクセスできない場所に保管しています。この場合でも就業規則に効力が認められますか?

A いいえ、効力が認められません。労働基準法106条第1項では就業規則の労働者への周知義務が定められており、これは従業員を保護して予想外の不利益が及ばないようにするための規定です。周知されていない就業規則によって従業員を拘束することはできません。最高裁判例でも「就業規則は周知によって効力が発生する」と判断されています(平成15年10月10日 最高裁判決)。
作成、届出をしても周知しなければ就業規則に法的効果が認められませんし30万円以下の罰金刑が科される可能性もあります。

Q5 必要的記載事項の記載漏れがあったら就業規則は無効になるのでしょうか?

A5 いいえ、記載事項を欠いても従業員が了承して周知されているなど要件を満たしていれば、就業規則は有効になる余地があります。ただし絶対的記載事項や相対的記載事項を欠いていると、労働基準法の定める「就業規則作成、届出義務」を果たしたことにならず、違法状態になります。
絶対的記載事項だけではなく、相対的記載事項も必要な場合に欠いていると違法であり30万円以下の罰金刑を科される可能性もあります。

Q6 相対的必要記載事項とはどういったもので、具体的にはどのような事項なのでしょうか?

A6 相対的必要記載事項は、あてはまる場合に必ず就業規則に定めなければならない事項です。以下のようなものがあります。

  • 退職手当を定める場合、適用される労働者の範囲や退職手当の決定、計算、支払方法、支払時期
  • 臨時の賃金や最低賃金額に関する定め
  • 労働者へ食費や作業用品などの負担をさせる場合のルール
  • 安全衛生に関するルール
  • 職業訓練に関するルール
  • 災害補償や業務外のけが、病気への補助に関するルール
  • 表彰や制裁を定める場合、それらの種類や程度

上記のほか、事業場のすべての労働者に適用されるルールがあれば就業規則に定めましょう。

Q7 就業規則の作成や変更は、会社が自由にできるのですか?

A7 いいえ、自由にはできません。まず、法令や労働協約に反してはならず、違法な就業規則は無効です。

また就業規則を作成変更する際には、労働者の代表者から意見聴取しなければなりません。労働者の過半数から成り立つ労働組合があれば労働組合から、ない場合には労働者の過半数の代表者から意見を聞きます。特に労働者にとっての「不利益変更」については、内容が合理的でなければ無効となる可能性があります。

Q8 就業規則の不利益変更にすべての労働者の同意が必要なのでしょうか?

A8 いいえ、全員の同意までは不要です。ただし過半数を代表する労働者や労働組合の意見を聞かねばなりませんし、不利益変更の場合、内容が合理的でなければ無効になる可能性があります。

参考判例 最高裁昭和43年12月25日 秋北バス事件

「労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべき」

Q9 当社の全体の従業員数は20名ですが、3名のみが参加している合同労組が入り込んでいます。このような少数の労働者が加入する労働組合がある場合でも、意見聴取が必要でしょうか?

A9 基本的には不要です。就業規則作成、変更の際に必要な「労働者からの意見聴取」は、「労働者の代表者」から行うべきとされているからです。「労働者の代表者」とは「労働者の過半数からなる労働組合」もしくは、そういった労働組合がなければ「過半数の労働者を代表する者」です。20名の労働者のうち3名しか参加しない労働組合は「労働者の代表者」ではないので、意見聴取は不要です。

ただしあらかじめ労働協約で「就業規則変更の際には労働組合と協議する必要がある」などと定められていたら、労働組合と協議しなければなりません。

Q10 当社には労働組合がありません。労働者の代表者はどうやって選出すればよいのでしょうか?

A10 次のいずれかの方法で選出しましょう。

  • 従業員投票を実施して、過半数の票が集まった労働者を代表とする
  • 挙手によって過半数の労働者の支持が集まった労働者を代表にする
  • あらかじめ候補者を定め、労働者への回覧で信任、不信任の意見を集めて過半数の支持を得た労働者を代表にする

なお労働基準法上の「管理監督者」は労働者の代表者になれません。

禁止される方法

以下のような方法で代表者を選出してはなりません。

  • 雇用者が一方的に代表者を指名する
  • 既存の「親睦会」などの代表者を代表者とする
  • 労働者からの意見を聞かず、何らかの役職者を代表者とする
  • 一定範囲の役職者のみが投票して代表者を選出する

労働者への不利益取り扱いも禁止される

代表者選出に際し、使用者が以下の労働者に不利益取り扱いをするのは違法です。

  • 代表者になろうとした労働者
  • 代表者となった労働者
  • 代表者として正当な意見を述べたり行動したりした

Q11 就業規則がなかったら懲戒処分はできないのでしょうか?

A11 できません。懲戒処分には譴責、減給、出勤停止、降職・降格、諭旨退職、懲戒解雇がありますが、これらの処分を行うには「就業規則にあらかじめ懲戒の種類や原因」を定めなければなりません(昭和54年10月30日 最高裁判例)。

就業規則に懲戒規定がないと、問題行動を起こした社員を懲戒解雇したり出勤停止にしたりできず、企業が大きな不利益を受ける可能性があります。

就業規則の懲戒規定には「どういったケースでどのような処分を適用するのか」明記しましょう。なお懲戒に関する定めがあっても、「問題行動に対してあまりに重い処分」は無効になるので、運用方法にも注意が必要です。

Q12 たとえば特別休暇などの事項について就業規則や労働協約、労働契約など複数の規定がありそれぞれ条件が異なっているとき、何が優先されるのでしょうか?

A12 労働協約や就業規則の内容が異なる場合の優先順位は、基本的に以下のようになります。

法令>労働協約>就業規則>個々の労働契約

たとえば個々の労働者との雇用契約において、その労働者のみ特別休暇が少ないなど就業規則を下回る条件を定めても無効です。

Q13 懲戒規定において減給に関するルールを定めたいと考えています。どのような点に注意すれば良いでしょうか?

A13 減給については法律上の制限があるので、以下の基準を超えてはなりません。

    1回の減給額は1日分の平均賃金の半額を超えてはならない

    1回の問題行動に対する懲戒で減給できる金額の上限は「1日の平均給与の半額」です。また1回の懲戒で減給できるのは1回であり、1日の半額を何回にもわたって減給することもできません。

    減給総額は、1回の賃金支払期における総額の10分の1を超えてはならない

    1回の賃金支払期(毎月1回支払いの場合には1ヶ月)に複数回の懲戒事由が発生した場合、減給額の総額は「賃金総額の10分の1」が限度です。

    月給だけではなくボーナスから減給する場合にも上記の制限が適用されます。

    ただし以下に該当する場合、適正な手続きを履践すれば減給制裁とみなされず、賃金総額の10分の1を上回る減給なども認められる可能性があります。

    • 出勤停止期間中に賃金を支給しない
    • 遅刻や早退、欠勤に対する賃金を支給しない
    • 昇給停止

    茨城県エリアにて就業規則の作成、変更のご要望がありましたらお気軽にDUONの弁護士までご相談ください。